
むかし、ウサギは月の中でおモチをついたりしていました。しかし、いま、もう月の中にウサギはいません。人間は月ロケットを飛ばし、月の表面を歩いたからです。月にウサギは1わもいないことがわかりました。
こうして科学の進歩とともに、かつての夢やおとぎばなしたちは少しずつ姿を消してゆきます。だからいまわたしたちは、科学に負けない夢やおとぎばなしを生み出してゆかなければなりません。
ある詩人の家に、白いウサギが1わ飼われていました。ウサギ小屋は針金でできていましたから、ウサギはよく外を見ることができました。明るい空を見ることができました。その大きく赤い目で、神さまを見つめていました。長い耳で、自分とすべての世界を生かしてくれている神さまの言葉を聞きもらさないでしっかり生きていました。
人間は、神さまからちょっぴり余分に知恵をさずかっています。だから、詩人もちょっぴり余分に知恵をさずかった姿勢でウサギの隣りに並んで座り、ウサギと同じ目線で生きたいと願いました。
「文学書を読んだり哲学書を読んだり、たくさんの本を読みあさってきたけれど、行き着いた場所がここだったなんて……」と詩人はつぶやきました。「私は書いたりしゃべったり騒々しいことだったが、沈黙のなかでウサギは大切なことを気づかせてくれた。ありがとうよ」
ウサギはやはり黙って空を見ていました。黙ったまま神さまと交信をつづけていました。
「ピピピ、おまえの命はあと5年だぞ」
「ピピピ、はい分かりました。そのように生きます」とウサギは送信しました。
「ピピピ、わたしが与えた毛のように人にはやさしく生きなさい。ことに子どもたちには,ね」
「ピピピ、はい分かりました。そのように生きます」とウサギは送信しました。
「ピピピ、だけどおまえは自分を失わずひとりぼっちにも負けないで生きなさい」
「ピピピ、はい分かりました。そのように生きます」とウサギは送信しました。
「ピピピ、おまえは草のたぐいだけを食べて生きなさい」
「ピピピ、はい分かりました。そのように生きます」とウサギは送信しました。
「ピピピ、フンチは必ずきまったトイレでしなさい。でないと、おまえの寝床はせまくなる」
「ピピピ、はい分かりました。そのように生きます」とウサギは送信しました。
「ピピピ、フンチは必ずま〜るくつぶつぶの形でするように」
「ピピピ、はい分かりました。そのようにいたします」とウサギは送信しました。
しかしウサギはときたま足を踏みならしておこるときがあります。自分を主張しているのです。だけどそれもまた神さまのことばにしたがっているのでした。
「ピピピ、ウサギウザ、自分をのこして主張してもいいのだぞ」
「ピピピ、はい分かりました。ではここで一発」“ガツン!!”
「ピピピ、おお、ゆかいじゃ」
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